お侍様 小劇場
 extra

   “まぁお、にゃうみぃvv” 〜寵猫抄より


雪には慣れている筈の北日本の人々までも、
こんな冬は記憶にないとの悲鳴を上げたほど、
途轍もない積雪を記録した極寒のそれになった真冬が、
確かにほんの数日前のことだったはずなのに。
獅子のように厳かな俊足で否応無くやって来て、
そのくせ兎のようにあっと言う間に逃げてく二月が、
その通りの あっと言う間に、あと数日となった今、

 「随分とほかほかした日が、そういえば続いておりますものね。」

重たいコートも、そういえばこのところは着ていない。
窓辺の明るさに誘われて、いそいそと布団を干し出す日が増えた。
エアコンのスイッチを入れない昼も増えた。
それからそれから……。

 「……………おやすみですか。」

とっても小さなポンチョや靴下カバー、
手編みの品だからと選り分けた上で手洗いしたの、
バーベキューに使うような焼き網を、
ポーチの陽だまり、斜めに差しかけたところへ並べて干して。
さあ終しまいと戻って来たリビングでは、
玉子色の、こちらもポンチョ風のカーディガンを羽織った幼子が、
陽あたりのいい一角、コタツ布団の裳裾に小さな頭を預け、
ころんちょとその身を丸めて、くうくうとお昼寝中。
眩しくないかと案じてしまうほどのいいお日和が照る中で、
透くような白い頬に、桃のような淡い緋色をさっと亳き、
軽く合わさった瑞々しい口許もやわらかに、
金色の春霞のような綿毛をけぶらせ、
本人こそが春のお使いみたいな愛らしさで、
穏やかに眠り続ける久蔵だったりし。

 “遊ぼう遊ぼうって、まとわりついて来てたくせにね。”

洗濯ものを干してからねと、小さな頭をそおと撫でてやると、
小さなお手々を上げて ふにゃりと笑い、
聞き分けよくも“にゃあん”と鳴いてた可愛い子。
このところ、何とか頑張ってのことだろうが、
小さなものなら掴めるようになっており。
これで遊ぶのということか、
パイル地製でパンヤの中に鈴の入った、
ポップなデザインのお魚のぬいぐるみを、
懐ろに抱っこするようにしている様子が、
何とも言えず愛らしく。

 “…起こしちゃうかな?”

足音や気配を押し殺しての、
息まで殺すようにして すぐ傍らに座り込み。
そおっとそおっとその手を延べて、
輪郭にだけ触れるような遠慮をしいしい、
それでもと触ってみようとした七郎次お兄さん。

 “……、〜〜〜〜〜。(うあああぁぁぁぁ。)///////

陽に暖められてもいたのだろうが、
それにしたってこの柔らかさは何ごとかと。
手のひらへ伝わる、幻の綿あめみたいなふわふか感に、
どひゃあぁぁ〜〜っと慄いていたところ、

 「   、…っっ!」
 「(これこれ、静かにせんか)」

不意に背後から伸びて来た腕により、
二の腕ごと上半身をぎゅぎゅうっと拘束されたなら、

 「(誰だって驚きますって。)」
 「(? 何だなんだ? もちっとキツくか?)」

肩越しの目顔での訴えが、通じてない…振りをして。
すぐ後ろにいつの間にやら近づいていた勘兵衛の、
やはり座り込みつつ延ばされた腕へまんまと取り込まれ。
その腕、ますます輪をすぼめにかかるのへ、
あわわと…身のうちをめぐる血脈の温度を上げつつも、

 「(何してますか真っ昼間からっ。)///////

と、慌てて見せた、
そちら様もそのつややかな金の髪、
まろやかな温さに暖めていた美丈夫殿。
とりあえずの力比べでは、
後ろを取った壮年殿のほうが優勢だったようで。
仔猫のいたコタツから引きはがされた格好、
ぽそんと埋まるよに、相手の懐ろに深々と納まってしまい、

 「〜〜〜〜。///////

態勢が悪かったとはいえ、
こちらの方が若いのに…やすやすと負けたのはちと口惜しいか。
どういうおつもりかと、目許尖らせ、
やはり肩越しに御主を見据えれば、

 「……なに、何とも暖かそうだったのでな。」

儂が寒いのは苦手なことは存じておろう、
だから自然と抱え込みとうなっただけだと。
こんな幼稚な仕儀の言い訳、
恥ずかしげもなくしらっと言ってのけるは、
壮年ならではの厚顔さからか。
いやいや、こうまですらすら言ってのけるからには、
きっと別心あっての白々しい糊塗の弁なのに違いない。

 “大方、
  わたしをからかっておいでなのだ。///////

すやすや寝入る久蔵に触れたいと思った、
子供じみた衝動を、
いい大人のすることで無しと揶揄するついで。
それは正しく“こういうこと”だぞと、
やって見せたまでのことかも。

 「〜〜〜〜。///////

壮年と呼ばれる世代のそれとは思えない、
がっつりと堅い筋骨も頼もしい、
勘兵衛の雄々しき腕に囲い込まれて思うのは、

  ―― でもでも だって、
     しょうがないじゃありませぬか。

拘束を外そうと、
胸板の前へ差し渡されていた勘兵衛の腕へ、
取りすがっていた七郎次からの抵抗が弱まって。

 「?」

如何したかとお顔をのぞき込めば、

 「だってあんなにも愛らしくて、
  陽だまりの中、安んじて眠る姿なんて、
  この世のものとは思われぬ、可憐な愛らしさに満ちていて。」

そう、天使みたいに見えたのですもの、と。
仔猫様への賛辞を並べる恋女房殿なのへ、

 「???」

だがだが、こちら様へは微妙に通じてないご様子。
だってそれもまたしょうがない。
仔猫様にうつつを抜かしてのこと、
それは和んだお顔をする七郎次なのが、
勘兵衛にしてみれば、思いがけない眼福で。
自分へだっていいお顔をしてくれる彼じゃああるが、
それだと見られなかろう、
微妙に“隙あり”な屈託のないお顔。
緩んだ、もとえ 柔らかなお顔というものも、
ふんだんに見せてもらえる、
この近年だったりするものだから。
その“隙”をつついてみたくなるだけのこと。
つまりは勘兵衛の側こそ、
子供じみたちょっかいかけをしているだけなのに。

  ―― そうして、そして

大人二人がラグの上へと座り込み、
何やらごちゃごちゃやってる狭間へ、

 「にゃあ・みゅvv」
 「うあ、久蔵っ。//////
 「おお、久蔵。」

よいちょよいちょと幼い爪を掛け、
ボクも混ぜてと言いたいか、
よじ登って来た和子様だとあって。


  いくらご自宅だとはいえ、
  何やってんでしょかね、いい大人たちが。
(笑)





   〜Fine〜  2011.02.22. (猫の日に寄せて)


  *去年の猫の日はというと、
   栃木に住んでるシチさんの伯父さんが、
   急なこととて倒れたらしいとの知らせを受けて。
   お母様が遠出をし、父子で過ごすこととなったんでしたよね。
   早いなぁ、あれからもう1年経つのか。

   今年はこんな突貫ものですいません。
   偏頭痛は少しずつ収まってるようですが、
   それにしたってこんな長引いてるのは初めてで。
   それで気がつかなかったのか、
   ウチのご近所では、今年は猫鳴きがまだ聞こえません。
   節分の前後と、それから桜の時期と、
   春は二回あるはずですのに、今年は静かなもんでして。
   まあ、ほんの少し前に積もるほど雪が降ったりもしたんで、
   猫にすればお外へ出掛けるどころじゃなかったのかもですね。

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